皆さま、こんにちは。
小説講座本のご紹介です。
今回はこの本を取り上げます。
三田誠広著「天気の好い日は小説を書こう」(集英社文庫)
小説家をめざすあなたに小説の書き方をいちから伝授する。
小説とおとぎ話の区別から説き起し、書き方の基礎の基礎を押さえ具体的な注意事項を与えた末に、小説がスラスラ書ける黄金の秘訣まで授ける。
文芸誌の新人賞作家を輩出したこの「講義録」を読んで、あなたもすぐにペンを執ろう。シリーズ第一弾。(解説から)
かなり古い文庫本だけど、内容はかなり分かりやすく、小説創作の参考になります。
これは読まないより読んだ方がいいですよ。
小説の仕組みとは?
第一回から第五回、そして最終回と、講義内容が文章化されています。
まず小説を書くために何が重要か。
作者はこう言っています。
小説を書くためにいちばん重要なのは、モチーフですね。
どうしても書きたい、書かねばならぬ、という内的衝動が必要なんですね。
そういう強い動機があれば、おのずと書く者に力がみなぎってくる。多様な体験をもつことは、その人の書くものに幅と奥行きをもたらします。
文学を豊かにするためにも、文学とは距離をとった視点というものが必要になります。
作品の文学的価値と本の売れ行きとは無関係です。
まあ、文学的価値が低くとも、売れている本はたくさんあるからね。
文体についても言及し、私小説については詳しく触れています。
誤解があるといけないので言っておきますが、「一人称小説」と「私小説」は同じではありませんよ。
むしろ「私小説」は三人称で書かれることが多いということも、憶えておいてください。
初めは過去形で書いていっても、山場になってくると、
同時進行で話が展開していく、というふうに書くと迫力が出てきます。
そうも語っていますね。
「私小説」のもっている「切実さ」や「リアリティー」を保ちながら、
同時に「社会的な視野」をもっている、こういう作品がすぐれた作品なんですね。
つまり「私小説」を書くことは、そのまま「社会小説」になるということです。
最近はミステリーやら警察小説、時代小説が主流だから私小説作家はあまり聞かないけど、
作者が言うように「自分の体験の中で、社会と通じる部分、あるいはこの時代というものと通じる部分があるかどうかという視点で、
絶えず検証をしながら、認識をしながら自分というものを見つめないといけないということですね。」というわけです。
「主体」「欲望」「壁」――初心者にとってのキーワード
これはとても大事です。小説の構造です。
わかりきった事柄ですが、やはり常に頭に描き、小説創作に活かさなければなりません。
ここで、近代小説のもっとも基本的な仕組みについてお話ししましょう。
仕組みってなんでしょう?
近代小説がスーパーヒーローではなく、反省したり不安を抱いたりするリアルな人間を主人公にしているということは第一回の時にお話ししました。
この主人公を「主体」というふうに呼んでおきます。
この「主体」が「欲望」を抱くところから小説は出発するのですね。
「欲望」を抱いてしまうと、「主体」は「外界」に対して、何らかの働きかけをせずにはいられなくなる。
働きかけがうまくいって「欲望」が簡単に満たされてしまったのでは「小説」になりません。
満足したら、書く必要もないわけです。
多くの場合、「主体」と「外界」の間には、「壁」が立ちはだかります。
「欲望」が壁にはねかえされて「主体」が苦悩する、というふうに展開すると、小説らしくなっていく。
映画やドラマでも、必ず主人公の前に壁が登場しますね。
越えなければならない壁。
その壁を乗り越えると、新たな壁に出くわすのです。そしてまた壁を乗り越えるために戦う。苦悩する。
主体、欲望、壁。
この仕組みを把握し、プロットを立て、書いていくのです。著者はそう言っています。
わかりやすいですね。
オノマトぺ(擬音語)に出会うと「ガックリ」します
なくていい言葉はどんどん省くことを検討してみてください。
省ける言葉、いくつかあります。「やっぱり」「まるで」「少し」「ちょっと」とかね。
例えば、「この日は少し暑かった」、これね、「その日は暑かった」でいいですね。
(中略)
それから「何かしら」「何か」「何となく」「何だか」とか、
これ全部取っちゃってください。
自信がないんだよね。「何だか嬉しかった」というのは、「嬉しかった」と言いきってしまったほうがいい。
それから、月並みな表現、慣用句を使わない。
「口もとを綻ばせた」とかね、「肩をいからせた」とか、「胸をなでおろした」とか、そういう表現ですね、
全部アウトです。
それからオノマトペを排除してください。
「胸がどきどきした」とか、「ガンガン、ドアを叩いた」とかね。
「ガックリとうなだれた」「ぎくっとした」「グサッと刺した」「ドンと胸を叩いた」
こういうのはダメです。
使ってはいけない言葉とは?
使ってはいけない言葉。できれば避けたい言葉があります。
この言葉は使ってはいけないというルールを決めておきましょう。
「孤独」「絶望」「愛」「希望」「感動」。この五つです。
この言葉が出てくると、書いている人がバカに見えます(笑)。
「孤独」ということを表現するのが文学なんですね。
プロットを作って、描写をして、主人公を追い詰めていって、主人公が孤独に生きているそのありさまを、
「孤独」という言葉を使わずに表現するのが文学なんですね。
まあね、孤独や絶望、愛、希望、感動も、プロの作家でも使っていますが、新人なら使わない方がいい。
「孤独」という言葉を使わずに表現するのが文学。確かにその通りだと思いますね。
「欲望をもった主体と外界の間に壁を設定する」
「説明でなく具体的な描写で表現する」
「主人公と書き手の間に距離をとる」
以上、大事なことのまとめです。
小説を書いている方、また書こうとしている方には、かなりの部分で参考になると思いますね。
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